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東京高等裁判所 平成9年(ネ)1232号 判決 1998年9月16日

控訴人

三晃印刷株式会社

右代表者代表取締役

山元悟

右訴訟代理人弁護士

宇田川昌敏

河本毅

植木智恵子

被控訴人

是村高市

(ほか一五名)

右一六名訴訟代理人弁護士

柳沢尚武

滝沢香

主文

一  本件控訴を棄却する。

二  訴訟費用は控訴人の負担とする。

事実及び理由

第一当事者の求めた裁判

控訴人は、原判決中の控訴人敗訴部分の取消しとともに、被控訴人らの請求をいずれも棄却するとの判決を求め、被控訴人らは、控訴棄却の判決を求めた。

第二事案の概要

本件の事案の概要は、一審原告川田晃司、同小森民雄及び同白井研也の訴え取下げに伴い、次のとおり改め、当審において、当事者双方が「原判決の別表1未払賃金計算表は、原判決の判断を前提とする限りで、その数値・計算について争わない。」と主張したほかは、原判決の事実及び理由欄第二に記載のとおりである。

一  原判決一九頁一行目(本誌七一四号<以下同じ>24頁4段11行目)の「同川田、」、二行目(24頁4段12行目)の「同小森、」及び「同白井、」をいずれも削る。

二  同二四頁八行目(25頁3段7行目)の「同川田、」を削り、九行目(25頁3段9行目)の「九名」を「八名」に、一〇行目(25頁3段10行目)の「一〇名」を「八名」にそれぞれ改める。

三  三〇頁一行目(26頁1段24行目)の「川田、同」及び五行目(26頁1段31行目)の「3、」をいずれも削る。

四  同七行目(26頁2段3行目)及び三一頁一行目(26頁2段9行目)の「計算表2」を「計算表2、4、5、7、9」にそれぞれ改める。

五  同三一頁六行目(26頁2段16行目)の「1」を「1、2、4、5、7、9」に改める。

六  同四一頁四行目(27頁3段12行目)の「同川田、」、「同小森、」及び五行目(27頁3段13行目)の「同白井、」をいずれも削り、七行目(27頁3段17行目)の「2」を「2、4、5、7、9」に改める。

七  別表2の未払賃金等計算表3、6及び8を削る。

第三当裁判所の判断

当裁判所も、被控訴人らの請求は、原判決が認容した限度で理由があると判断する。その理由は、次のとおり改めるほかは、原判決の事実及び理由欄第三に記載のとおりである。

一  原判決四七頁二行目(28頁2段14行目)の「<証拠略>」の次に「、<証拠略>」を、同行の「)」の次に「及び弁論の全趣旨」を、四行目(28頁2段17行目)の「記録は、」の次に「控訴人によって」を、同行の「個人別出勤表」の次に「の始業時間・終業時間の各欄」をそれぞれ加える。

二  同五行目(28頁2段18行目)の「こと」の次に「(ただし、同表の始業時間欄には、原則として、従業員が控訴人の始業時刻である午前九時前に出社した場合でも、実際の出社時刻は記載されず、午前九時と記載され、従業員が午前九時より後に出社した場合にのみ、実際の出社時刻が記載されていた。この例外として、<証拠略>によれば、第四作業部に所属していた被控訴人榎本、同金子、同庄司、同田邊及び同西脇並びに平成元年四月から第四作業部に配属された同豊島については、同表の始業時間欄には、午前九時より前の時刻の記載が少なからず見受けられる。もっとも、控訴人がこのような例外的記載をした理由は明らかではない。)」を加える。

三  同七行目(28頁2段22行目)の「計算表1」を「計算表1、2、4、5、7、9」に改める。

四  同九行目(28頁2段25行目)の「認められる」の次に「(この数値・計算については、当事者間に争いがない。)」を加える。

五  同四九頁一行目(28頁3段12行目)の「こと」の次に「(ただし、始業時間欄の記載については、前記のとおりである。)」を加える。

六  同二行目(28頁3段12行目)及び三行目(28頁3段15行目)の各「記録」の次に「ないし個人別出勤表」をそれぞれ加え、七行目(28頁3段20行目)の「記載」を「記録ないし個人別出勤表」に改め、九行目(28頁3段23行目)の「記録」の次に「ないし個人別出勤表」を加える。

七  同五〇頁七行目(28頁4段6行目)の「タイムカード」から一〇行目(28頁4段11行目)末尾までを「タイムカードに記録された出社・退社時刻とは異なる時刻によって労働時間を計算することを予定する後記の直行・直帰届(願)の手続がされたなどの特段の事情がない限り、タイムカードに基づいて、控訴人が作成した個人別出勤表の始業時間欄記載の時刻から終業時間欄記載の時刻までの時間をもって実労働時間と推定するのが相当である。」に改める。

八  同末行(28頁4段12行目)の「被告は、」の次に、次のとおり加える。

「まず、タイムカードは、従業員の出・退勤の状況を把握し、あるいは、勤怠管理の一助にするという目的で従業員に打刻させていたものであり、控訴人が従業員の時間管理をしていた事実はなく、被控訴人らのタイムカード(ないしこれに基づいて記載された個人別出勤表)の記載から計算される労働時間は被控訴人らの現実の労働時間ではない旨主張する。

しかし、(証拠略)、原審における被控訴人是村の供述及び(人証略)の証言並びに弁論の全趣旨によれば、控訴人は、本件請求期間において、タイムカード及び直行・直帰届(願)のほかには、被控訴人ら従業員の労働時間を把握する措置をとっていなかったこと(時間外労働の割増賃金に関する労働基準法三七条は強行規定であり、使用者は各労働者につき通常の労働時間を超える労働時間を把握すべき責務を負う。)、直行・直帰届(願)は、従業員が出社前又は退社後に社外で労働に従事する際に、控訴人の総務部長宛にその内容を記載した書面を作成・提出し、控訴人の承認(同書面には所属課長・所属部次長・総務部長の認印欄が設けられている。)を受けるものであり、これにより、従業員の出社前又は退社後の労働が認められる制度であること、直行・直帰届(願)は、タイムカードの打刻時刻上は遅刻・早退となっても、直行・直帰に必要な労働に従事した時間の範囲内では遅刻・早退と認定されないこと(場合によっては、始業時刻前又は終業時刻後の労働が認められること)を書面により明らかにするものであることが認められる。また、右の直行・直帰の場合を除き、控訴人は、前記認定のとおり、従業員に対し、タイムカードの記録ないし個人別出勤表に基づき遅刻等を理由とする賃金カットなどの不利益処分をしていた。

そうすると、被控訴人ら従業員の労働時間は、控訴人の主張する主観的な意図ないし認識いかんにかかわらず、タイムカード及び直行・直帰届(願)によって一応の把握をすることができたし、またその趣旨で個人別出勤表が作成されていたと認めるべきである。

また、(証拠略)によれば、控訴人は、現在では、タイムカードの記録のほか、従業員に対して作成・提出を義務付けている残業(深夜)報告書等を参考とし、控訴人の承認する範囲内で労働時間を認定することとしているため、タイムカードに記録された出社(出勤)・退社(退場)の時刻の記載と、控訴人が個人別出勤表に記載する労働時間算定のための時刻の記載とは、相当に異なっていることが認められる。控訴人としては、このように、従業員に対する残業(深夜)報告書の作成・提出及びこれに対する控訴人の承認(この承認は、残業時間をおおむね特定した残業命令の性質を有するものと認められる。)という手続により、従業員の残業労働時間の一応の把握をすることができる。

このように、控訴人がその従業員の労働時間を把握する方法は、本件請求期間内に行われていた方法や現在行われている右手続がある上、他にもあり得るのであって、控訴人が本件請求期間内において従業員の労働時間の把握のためにタイムカード及び直行・直帰届(願)以外の措置を講じていなかった本件にあっては、被控訴人ら従業員の実労働時間は、タイムカードの記録に基づいて、控訴人が作成した個人別出勤表によって推定するのが相当である(なお、本訴においては、被控訴人らに関する直行・直帰届(願)が書証として提出されていないため、これによって認定できる労働時間が被控訴人らの個人別出勤表に折り込まれているか否かについては明らかではない。しかし、この点が明らかでないことは、被控訴人らの請求権の有無の判断において、控訴人に不利益となるものではない。)。

さらに、控訴人は、」

九  同五〇頁末行(28頁4段13行目)から五一頁一行目(28頁4段14行目)の「タイムカードに打刻した始業時刻と終業時刻」を「個人別出勤表に記載された始業時間欄の時刻から終業時間欄の時刻」に、五一頁一、二行目(28頁4段14行目)の「であるのに」を「に、手待時間があった上」にそれぞれ改める。

一〇  同九行目(28頁4段24行目)の「同川田、」及び「同小森、」を削る。

一一  同五二頁五行目(29頁1段3行目)の「タイムカード」を「個人別出勤表」に、六行目(29頁1段4行目)の「二二日」を「一二日」に、同一〇行目(29頁1段11行目)の「九日」を「二九日」にそれぞれ改める。

一二  同五三頁四、五行目(29頁1段17行目)の「タイムカードに打刻されている始業時刻と終業時刻」を「、個人別出勤表に記載された始業時間欄の時刻から終業時間欄の時刻」に改める。

一三  同六行目(29頁1段20行目)の「時間の長短」から七行目(29頁1段22行目)の「終業時刻」までを「時間帯が特定しておらず、右程度の立証をもってしては(控訴人がタイムカード以外に十分な労働時間管理をしなかったことに問題がある。)、個人別出勤表に記載された始業時間欄の時刻から終業時間欄の時刻」に改める。

一四  同八行目(29頁1段23行目)の「考える」から九行目(29頁1段25行目)末尾までを次のとおり改める。

「する前記推定をもって処理するほかない(本件においては、前記推定を覆す具体的な事実の主張立証責任は控訴人にあるが、これは尽くされていない。なお、<証拠略>によれば、控訴人は、現在では、従業員が残業する場合には、従業員に前記残業(深夜)報告書を作成・提出することを義務付け、同報告書には、残業(作業)内容及び残業時間の各欄のほか、食事時間の欄も設けられているので、これにより、従業員が終業時刻後に労働に従事した事実の有無及びその労働時間を、従前より的確に把握することが可能となっている。)。

また、原審における(人証略)の証言及び弁論の全趣旨によれば、被控訴人らは、労務の性質上、顧客や控訴人の他の部署との関係で、個人別出勤表に記載された始業時間欄の時刻から終業時間欄の時刻の間において、待機することを余儀なくされる時間、すなわち控訴人主張の手待時間があったことが認められるが、右手待時間は、一般的には従業員が労務に従事できる状態で待機することを余儀なくされている時間である上、本件にあっては、右手待時間は具体的に特定されて立証されておらず、その手待時間について控訴人が被控訴人らに対して労務の提供を免除した事実の立証もない。労働基準法四一条三号の適用のあることの主張立証もない。右手待時間が一般的にあったことも、前記実労働時間についての推定による処理を妨げるものではない。」

一五  同五四頁八行目(29頁2段8行目)の「できるが」の次に「、(証拠略)、原審における被控訴人是村の供述によれば、訴外組合は、少なくとも昭和五八年ころから、本件固定残業制度を問題視しており、同六二年には、控訴人に対する要求項目として、従業員の実際の残業時間が固定残業時間を超えている場合にはその超えている時間に相当する賃金の支払を求めることを掲げていたことが認められ、これらの事実も併せ考えると」を加える。

一六  同五五頁七行目(29頁2段23行目)の「主張するが」から八行目(29頁2段24行目)末尾までを次のとおり改める。

「主張する。

確かに、本件固定残業制度は、残業をしなくても所定の残業手当を受けることができるという効力のみを認めるべきものではなく、全体として効力を有しないものと解される。したがって、割増賃金の計算が一月ごとにされるとしても、特定の一か月の割増賃金が当該一か月の固定残業給を超えない場合には、被控訴人らは、控訴人に対し、支給を受けた右固定残業給額と右割増賃金額との差額の返還義務を負担するはずである(本件請求期間についてのこの差額の合算額は、例えば被控訴人是村に関しては、別表1未払賃金等計算表1に記載のとおり、同被控訴人の本件請求期間についての未払賃金額の合算額を上回っていることが明らかである。)。

しかし、控訴人の被控訴人らに対する右差額返還請求権があるからといって、被控訴人らの控訴人に対する請求権が右差額返還請求権の金額の範囲内で当然に消滅するものではなく、控訴人の被控訴人らに対する相殺の意思表示(この場合の相殺は労働基準法二四条一項には抵触しない。)があってはじめて消滅するものである(当審では、控訴人に対してこの点につき釈明したが、控訴人は、右意思表示をしなかった。)。

したがって、控訴人の右主張は採用できない。」

一七  同五六頁九行目(29頁3段10行目)の「同川田、」、五七頁三行目(29頁3段16行目)の「3、」、一〇行目(29頁3段27行目)の「<証拠略>、」及び六〇頁五行目(29頁4段27行目)から六二頁三行目(30頁1段19行目)までをいずれも削る。

一八  同六二頁四行目(30頁1段20行目)の「(三)」を「(二)」に、六四頁二行目(30頁2段10行目)の「(四)」を「(三)」に、六五頁(30頁2段31行目)末行の「(五)」を「(四)」に、六八頁一行目(30頁3段24行目)の「(六)」を「(五)」に、六九頁一〇行目(30頁4段14行目)の「(七)」を「(六)」にそれぞれ改める。

一九  同七二頁二行目(31頁1段12行目)の「七名」を「六名」に改め、六行目(31頁1段17行目)の「同川田、」及び末行(31頁1段24行目)の「3、」をいずれも削る。

二〇  同七三頁八行目(31頁2段6行目)の「計算表1」を「計算表1、2、4、5、7、9」に改める。

二一  同七九頁三行目(32頁1段3行目)の「伸」を「延」に改める。

二二  同八〇頁二行目(32頁1段17行目)の「一八名」を「一五名」に、六行目(32頁1段23行目)の「ための回答の」を「ため、その回答につき」にそれぞれ改める。

二三  同八二頁三行目(32頁2段18行目)の「平成」を「右(四)の交渉において、平成」に改める。

二四  同九〇頁六行目(33頁2段23行目)の「ついても」の次に「、被控訴人らの控訴人に対する」を、同行の「一九日付け通知書」の次に「に対するの」をそれぞれ加える。

二五  九五頁末行(34頁1段18行目)の「回答」の次に「(前記是村供述)」を加える。

二六  同九六頁二行目(34頁1段22行目)の「被告」の次に「から」を加える。

二七  同九八頁二行目(34頁2段24行目)の「同川田、」、三行目(34頁2段25行目)の「同小森、」及び「同白井、」をいずれも削る。

二八  同七行目(34頁3段1行目)の「計算表」の次に「(ただし、3、6及び8を除く。)」を加える。

第四結論

よって、本件控訴は理由がないからこれを棄却することとし、控訴費用の負担につき民事訴訟法六七条一項本文、六一条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 稲葉威雄 裁判官 塩月秀平 裁判官 橋本昇二)

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